大阪高等裁判所 平成9年(ネ)3214号 判決 1998年9月02日
大阪市北区東天満一丁目一二番一〇号
控訴人(原告)
シーマン株式会社
右代表者代表取締役
菅原冨夫
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
今中利昭
同
浦田和栄
同
松本司
同
辻川正人
同
岩坪哲
同
南聡
同
冨田浩也
同
酒井紀子
同
深堀知子
東京都港区芝公園二丁目四番一号
被控訴人(被告)
ゼオンメディカル株式会社
右代表者代表取締役
福島孝郎
東京都千代田区丸の内二丁目六番一号
被控訴人(被告)
日本ゼオン株式会社
右代表者代表取締役
中野克彦
右両名訴訟代理人弁護士
小池恒明
主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人日本ゼオン株式会社は、原判決別紙(一)説明書(図面(1)ないし(3))記載の容器入りシリンジを輸入し、販売してはならない。
三 被控訴人ゼオンメディカル株式会社は、前記シリンジを販売し、販売のために展示してはならない。
四 被控訴人らは、前記シリンジを販売するについて、そのパンフレツト、カタログ等の広告に原判決別紙(四)記載の事項を表示してはならない。
五 被控訴人らは、前記シリンジ及び原判決別紙(四)記載の事項が表示されたパンフレットを廃棄せよ。
六 被控訴人らは、控訴人に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する被控訴人日本ゼオン株式会社については平成七年二月一四日から、被控訴人ゼオンメディカル株式会社については同月一五日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
七 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
八 仮執行宣言
第二 事案の概要
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」と略称する。)。
次に付加する他は、原判決の事実及び理由中の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二一頁五行目「被告」の次に「ら」を加える。)
一 原告の当審主張
1 本件のインジェクター及びその付属品は薬事法一条にいう医療用具に該当する。医療用具について不正競争防止法を適用するに当たっては、国民の健康衛生上極めて重要な物であることに鑑み、一般の日用品とは異なった考慮が必要である。
一定の商品が出所表示機能(商品表示性)を取得するには、「需要者の間に広く認識され」ること(同法二条一号)を要するだけで、商品に独自の特徴まで要するものではない。本件は医薬品等の特別な商品に関するもので、一般産業上の商品と同列に考えるべきではない。
2 原告は、原告製品が原告の販売している造影剤注入装置に造影剤を注入するための注射筒であるとして、その形状、構造、寸法まで特定して輸入承認申請をした上、大量の原告製品を販売して来たものであり、その形態が周知であることは明らかである。原告製品のような付属品は造影剤注入装置との関係でその形態が技術的に決まる関係上、基本的形状はいずれの製品でもそれほど変わりはないが、それでも原告製品はリテイナー、シリンジバレル、プランジャーについて他社製品にない特徴を有している。
また、原告は、カタログのみでなく、各種の医学雑誌に原告製品の宣伝広告を行い、医療機器展示会にも出展して強力な宣伝に努めてきた。こうした宣伝や商談により、病院関係者には造影装置とシリンジとが一体であることは周知のことであり、それにより原告製品がメドラット社製品の商品形態に基づく出所表示機能を取得したことは明らかである。
3 シリンジは、造影装置に装着して使用するもので同装置と共に厚生大臣の承認を得なければならず、しかも、造影装置に外筒を取り付け、その外筒のなかにシリンジを装着して使用しなければならない。従つて、造影装置を具体的に特定しないでシリンジを使用することはできず、それが薬事法の立法趣旨である。しかるに、被告製品は使用の対象とされる造影装置について輸入承認を得ていないので、それを原告の造影装置に使用するのは薬事法に違反する。
第三 当裁判所の判断
次に付加・訂正する他は、原判決の事実及び理由中の「第四 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決六三頁六行目「五〇」の次に「、七一」を、同六七頁八行目「七一、」の次に「七二、」を各加える。
二 同六九頁六行目の次に改行して次のとおり加える。
「甲六、七、九のカタログには、原告製品の写真や図面及びその説明文が掲載されているが、それも本件注入装置の付属品として末尾の方に掲載されているにすぎず、それ自体として見る者に原告製品の特徴点を強く訴えるものではない。
右の他にも、原告が本件注入装置に関する広告を各種の医学関係雑誌などに掲載していることは認められる(甲一〇八ないし一二九、一三一、一三三)が、右広告においても、本件注入装置に原告製品が装着された全体の写真が掲載されているにすぎず、原告製品についての説明文もないから、これによっても原告製品が前記((一)(1)<1>)のような形態を有するものと認識することはできない。」
三 同七二頁六行目から末行までを次のとおり改める。
「証拠(甲九〇、九一、一三五、原告代表者本人の原審供述)によれば、原告の販売した本件注入装置は全国の病院などで使用されている造影剤自動注入装置のうちほぼ九〇%近くを占め、市場占有率は第一位であると認められる。」
四 同七三頁七行目「第二次的に」の次に「販売業者である」を、同末行「商品の形態」の次に「そのもの」を各加える。
五 同七四頁五行目「比べても、」の次に「キャップ、」を、同七行目「変わりがなく」の次に「(キャップの形態が円筒形であるのはリテイナーの形態に合わせる必要からであり、リテイナーの形態が次第に細い円筒状であるのは血管に造影剤を注入するためであり、シリンジバレルがリテイナーより太い円筒状であるのは必要量の造影剤を保持し、かつ、プレッシャージャケット(シリンジの外筒)に合わせるためであり、また、プランジャー(ピストン)が短い円筒状で先端が円錐状であるのもシリンジに合わせつつリテイナーの形状にも適合させるためであり、その下端に把手があるのもインジェクターに係合させるためであって、いずれも本体の注入装置に嵌合させるための必然的な形態であって、それ自体を独自の特徴ということはできない。)」を各加える。
六 同七五頁一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「なお、原告は、一定の商品が出所表示機能(商品表示性)を取得するには、「需要者の間に広く認識され」ること(同法二条一号)を要するだけで、商品に独自の特徴まで要するものではないと主張するが、特定の商品がその形態により出所表示機能を取得するには、その形態によって他の商品と識別できるだけの標識を有していること(自他識別機能)が前提であって、需要者の間に広く認識されるのも、右の自他識別機能に基づく商品の独自性によるものに他ならないから、右主張を採用することはできない。」
七 同七七頁初行「製品」の前に「入荷時には、」を加え、同八行目から一〇行目までを「仕入担当者も、直接治療や検査に用いる機材やその付属品については、医師あるいは管理責任者の指示を受けてメーカーや製品を特定して購入すると考えられる(弁論の全趣旨)のであって、右主張は採用し難い。」に改める。
八 同九六頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「原告は、シリンジの輸入承認を受けるには、装着すべき造影装置を具体的に特定して同装置とともに厚生大臣の承認を受けなければならないのに、被告製品は造影装置を特定することなく輸入承認を受けているので違法であると主張する。
しかし、原告が販売する造影剤注入装置の輸入承認において、それに装着されるシリンジについて厚生大臣が特段制限を加えたものと認めうべき証拠はない。
甲四九、五二によれば、原告がメラツドマークⅣ及び同Ⅴシステムの輸入承認(一部変更承認)を得るに当たって、「シリンジについては、純正部品であるメドラツド社の既承認ディスポーザブルシリンジ(承認番号…61B輸第897号)の一三〇ml又は六五mlを装着して使用するものとする。」「尚本装置にはメドラツド造影剤注入用ディスポーザブルシリンジ(承認番号…61B輸第897号 輸入承認取得者…センチュリーメディカル株式会社)が、専用ディスポーザブルシリンジとして装着使用される。」としているが、他方、「構成部品の各々は単品でも輸入される場合がある。また、本装置使用時に必ず併用されるX線装置及び侵襲式血圧モニター用のプレッシャートランスデューサー等は当システムに含まず、他社輸入製品または市販品を利用するものとする。」(甲四九)、「本装置使用時、併用されるX線装置造影剤注入用カテーテル、ECGモニター及び血圧モニターのプレツシャートランスデューサー等は本装置に含まれず、他社輸入製品又は市販品を利用するものとする。」(甲五二)としていて、他社製品が使用される部品もありうるものであり、シリンジについての右記載は、輸入申請者が原告製品輸入後の使用方法を説明したものに止まり、法的限定を加えた趣旨とまではいえず、これがユーザーの法的使用条件になるものとは言い難い。
被告ゼオンが輸入承認を受けた製品は、先に説示したとおり、造影剤注入装置に使用されるシリンジであることは明らかであって、厚生大臣はこれを前提にその輸入承認をしたものと認められる。
(なお、その使用が薬事法に違反する場合、厚生大臣又は都道府県知事は同法に基き改繕命令(同法七二条)、許可の取消し(七五条)等の行政上の処分を行うことができるのであるが、これは不正競争防止法とは別の問題であって、原告がその主張する薬事法違反を理由に、直接被告らに対し、被告製品の輸入・販売・展示等の差止請求等をなしうる根拠となるものとはいえない。)」
第四 結論
以上の次第で、原告の本訴請求はその余について判断するまでもなく理由がなく、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一〇年六月二六日)
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)